テロップが視聴者に与える影響に関する研究

研究背景

テレビ放送において,ここ10数年のうちで顕著な変化を示している要素の1つとしてテロップを用いた演出が挙げられます. たとえば最近のバラエティ番組を見ていると,ほとんどの番組の画面がテロップに占領されていることに気付きます. 出演者の音声,番組企画のテーマやタイトル,場面と場面のつなぎなど,使われ方もさまざまです. 文字のフォントや,色,大きさなど,文字自体を変化させることで,場面に合った演出をします. このようにテロップは情報発信者の意図を伝えるための演出の手段となっており, 視聴の補助を目的としている映画の字幕や字幕放送と比べて明らかに異なる性質を持ちます.

テロップが多用されはじめた当初は疑問の声もありましたが,現在では当たり前のように用いられるため違和感なく受け入れる視聴者も多くいました. 確かに効果的にテロップを使うことで番組の面白さや分かりやすさなどが向上します.しかし意味もなくテロップを乱用すれば,ただ単に画面を文字で汚すことになり,視聴者に不快感を与えるだけであると考えられます.

本研究では,動画でのテロップ表示の有無が視聴者の解釈にどのように影響するかを,関連性理論を用いてモデリングし,チャネル理論を用いて検証しました.

メディア文化

メディア【media】

メディアとは,情報の「記録」、「伝達」、「保管」などに使われる媒体です。 本研究では,テレビ、電話などのコミュニケーション・メディアに着目します. 最近のメディア(ニューメディア)としてはインターネット、携帯電話などが挙げられます。

メディアの誕生

メディアは16世紀以降発達してきました。まず、昔のメディアは発明されてからすぐに現在のメディアとしての機能を発揮するものではありませんでした。メディアは大衆の目的、要望があって初めてメディアとしての機能を果たすのです。
例えば、1876年に発明された有線電話はモールス式電信の延長として作られました。ですが、利用のされ方としてはオーケストラの演奏や劇場の公演などを電話を通してラジオ的な娯楽メディアとして使われていました。本来の目的の業務連絡やサービスを依頼するための情報の迅速な伝達手段としても使われました。しかし、1890〜1920年の間で大衆が「私的に使えるコミュニケーション手段」を求めたことにより今の電話としてのメディア概念が確立しました。

メディアの誕生過程は以下の通りです.

1 メディアとなる手段が発明される。
       ↓
2 大衆の目的や要望が大きくなる。
       ↓
3 メディアとなる手段が大衆の目的や要望に当てはまる。
       ↓
4 メディアとして確立する。

メディアリテラシー

メディアを通して情報を得るとき,情報の受信者はメディアからの情報を鵜呑みにして,不利益を被ることがあります.これを避けるためにはメディアリテラシーを学び, その能力を高める必要性があります.

メディアリテラシーとは様々なメディア(テレビ,新聞,ラジオ,雑誌,etc)が伝える情報を読み解き,その真偽を見抜き,活用する能力のことです. メディアを「批判的」に読み解くというのが基本的な考えですが,批判的(critical)とは日本語で言う「批判的に否定する態度」というネガティブな意味合いではなく,「適切な基準や根拠に基づく偏りのない思考」という前向きな意味を指しています.

マスメディアが報じる情報は,社会的に現実に起きており真実として受け取られる傾向にありますが,実際には完全に客観的な報道であることは有り得ません.必ず何らかの意図や制作者の価値観が含まれています.臨場感溢れるライブ中継を目にすると,テレビ中継であることを忘れさせ,あたかも自分がその場にいるかのような錯覚に陥ることもあります.実際に経験したことよりも,メディアが伝える情報の方が,現実味を帯びていると感じていることも少なくありません.世の中はメディアを通して多くの矛盾を抱えているので,真実だけを見抜くのは難しいです.メディア社会で生きていくためにメディアがもたらす利点と限界を把握する必要性があります.メディアが伝える以外のことや,異なるものの見方が存在することを理解してメディアと関わっていくことが大切です.

情報伝達の恣意性

ある情報が発信者から受信者へと伝えたれるとき,発信者の思惑によってその情報のもつ意味が恣意的に歪められる場合があります.

[例]

事象A  新しいレストランOPEN
 ↓
送り手  レストラン店主の弟
 ↓
事象A’ 新しいレストラン、評判いいらしいよ
 ↓
音声   言葉という音声メディアによって
 ↓
事象A’ 新しいレストラン、評判いいらしいよ 
 ↓
受け手  知人
 ↓
事象A” 新しい店はかなりおいしい

テレビなどのマスメディアも,視聴者の興味を惹きつけたり番組を演出するために,客観的事実に恣意的な意味をトッピングする場合があります.最近では登場人物のセリフに意味ありげなテロップを重ねることで,その登場人物の「キャラクター」を固定化し,番組の進行を分かりやすくする手法が多用されています.

チャネル理論

チャネル理論

J.BarwiseとJ.Seligmanによって,状況意味論構築と並行して作られた数学的道具です。
定性的な情報の流れを数学的に扱うことができます。

分類域(classification)
ある状態の対象を分類した集合

分類域:A=〈tok(A),typ(A), |=A〉は次の3つから構成されます。

1.トークン集合: tok(A)         ある状態の対象の集合
2.タイプ集合 : typ(A)        トークンを分類した集合
3.tok(A)とtyp(A)の間の二項関係: |=A  tok(A)とtyp(A)が成立

 

局在論理(local logic)
どのような組み合わせのタイプをもつかに関して、トークンのもつ規則性をモデル化します。

局在論理L=〈A, |-L,,NL〉は次の3つから構成されます。

1.分類域:A=〈tok(A),typ(A), |=A〉
2.Aのいくつかのシークエントの集合:|-L,
3.|-L,に属すすべてのシークエントを満足するトークンの集合:NL⊆tok(A)
分類域:A=〈tok(A),typ(A), |=A〉に対して、タイプ集合typ(A)から部分集合Γ,Δを抜き出し、その対〈Γ,Δ〉をシークエントとよびます。
あるトークンa∈tok(A)が「(∀γ∈Г , a|=γ)ならば、(∃δ∈Δ , a|=δ)」であるとき、「aは〈Γ,Δ〉を満足する」といいます。
すべてのa∈tok(A)が〈Γ,Δ〉を満足するとき、Γ|-AΔと表記し、〈Γ,Δ〉を「Aの制約」とよびます。
分類域Aのすべての制約集合を「Aのcomplete theory」とよび、Th(A)と表記します。
Aのすべてのトークンが満足するシークエントがすべて|-Lに属するとき、Lは完全であるといいます。
 

情報射(infomorphism)
2つの分類域から情報を類推する。
 ∀α∈typ(A),∀β∈tok(B)に対して次の条件を満たすとき、〈f∧,f∨〉をAからBへの情報射といいます。

f∨(β) |=Aα iff b|=Bf∧(α)

関連性理論

関連性理論では発話が伝達する意味として,明示的な意味での表意,非明示的な意味での推意に分類できるとしています.

表意

表意は,言語情報の不完全さを推論によって補って導かれます. 具体的な表意形成の作業として,一義化,飽和,自由拡充,アドホック形成概念の4つのプロセスが定義されています.

推意

推意は復元された表意を基に,純粋に推論のみで発話の意図を復元するものです. 言い換えるなら,推意とは,表意と認知環境を相互作用させ,適切な認知効果を得るプロセスといえます.

情報発信者・メディア・受信者間の情報チャネル

一般的なクイズ番組視聴時の情報の流れを,関連性理論とチャネル理論を用いてモデル化すると以下のようになります.

channel.jpg

タイプの対応によって以下のことが分かります.

  • 出演者の会話は多様な解釈が可能である(会話→恣意性→多義性)
  • 問題文が提示されると視聴者の視線はひきつけられる(問題文→注視性→知覚性)
  • 出演者の回答は認知負荷が多く,記憶に残りにくい(回答→リアルタイム性→認知負荷)

トークンの対応から以下のことが分かります.

  • 視覚的な文字情報は限定的に用いられる(制約→字幕→視覚-文字)
  • 画像情報の解釈には推意のレベルが求められる(推意→テロップ→視覚-画像)
  • 音声情報の解釈には表意のレベルが求められる(表意→音声→聴覚-文字)

テロップが視聴者に与える影響

クイズ番組

テロップが視聴者の心的態度に与える影響の分析は上記のチャネル理論を拡張することによって行いました.概要は以下の通りです.

テロップが誤答として表示される

       ↓

視聴者による「普通の人はこのような回答はしない,クイズの回答者は(自分よりも)愚かである」という解釈

       ↓

視聴者による「問題が難しかったから誤答したのではなく,クイズの回答者が愚かであるため簡単な問題だったのにも関わらず誤答した」という解釈

       ↓

普通である自分は「正答できたはず」という既知感を視聴者が持つ可能性がある

Q3-2.png

報道番組

近年,多くの報道番組ではテロップ以外にも,CGやフリップなどの視覚効果,BGMや効果音などの音響効果が施されています. このような報道番組の変化を報道番組の娯楽化と呼びます. 報道番組の娯楽化は視聴者に飽きずに番組を観てもらうためには大切なことですが,「ニュースをわかりやすく伝える」という本来の目的が軽視されてしまう恐れもあります.

これまでの研究によって,クイズ番組ではテロップが視聴者に影響を与える場合があることがわかりましたが,報道番組に使用されるテロップにもクイズ番組と同様に視聴者の判断に影響があるとすると,視聴者が誤解や拡大解釈を起こす可能性があります. そこで実際の報道番組を用いて実験を行い,テロップが視聴者に与える影響を分析しました.

ある報道番組をもとにして,実験映像を作成します. 被験者には「テロップが表示される実験映像」(下図左)か「テロップが表示されない実験映像」(下図右)のどちらかを観てもらいます. 「テロップが表示されない実験映像」は「テロップが表示される実験映像」を編集して,テロップをモザイクで隠したものです. 実験映像を観た後,被験者に「この報道についてどう感じますか?」や「この出演者についてどう感じますか?」などの質問に答えてもらいました.

「テロップが表示される実験映像」と「テロップが表示されない実験映像」を観た被験者の回答をそれぞれまとめて,テロップがあることで回答にどのような違いが出るのかを調べました.

telop.jpg  no_telop.jpg

研究会での発表

知能システムシンポジウム2008(東京工業大学)

  • 「テレビ放送のテロップが視聴覚行為に与える影響の分析」須藤 秀紹, 吉口 祐司
    • [Q] この研究の目的は?(テロップの効果をCMなどで応用することが目的?)
    • [A] メディアリテラシーのための基礎研究という位置づけであり,効果を積極的に応用することを目指しているわけではない.(むしろ批判的立場である)
    • [Q] 台詞全体ではなく台詞の一部だけが表示される場合は?
    • [A] 今回の実験では取り扱っていないが,台詞の一部の恣意的なピックアップには編集者の明確な意図が込められていると考えている.出演者同士の会話などを対象に,今後検討予定である.

ヒューマンインタフェースシンポジウム2008(大阪大学)9/2

  • 「テレビ放送のテロップが解釈の多様性に与える影響の分析」
    • [Q] テロップを出すタイミングとの関係は?(セリフとはずらして出すなど)
    • [A] テロップは,出演者との同期(リアルタイム性)を切り離す効果があり,没入感が減少すると考えられる.
    • [Q] テロップ,ティッカー表示(文字が流れるタイプ)との違いは? ティッカー表示だと,番組と時間が同期するので没入感が増すのでは?
    • [A] マクロ視点からの構造のモデル化であり,現時点ではティッカー表示については考えていなかった.心理実験などによって,時間軸の入れ方についても検討してゆきたい.

生命ソフトウェア部会研究会2008(室蘭工業大学SVBL)

  • 「クイズ番組のテロップが視聴者の回答者や問題に対する評価に与る影響」岸上健太郎, 須藤秀紹
    • [Q] テロップが視聴者へ与える影響について実験を行って検証していますが、被験者はどれくらいですか?
    • [A] 発表段階では14人です。
  • [Q] 実験の被験者は男性、女性それぞれ何人ですか?
  • [A] すべて心身ともに健康な男子大学生です。
  • [Q] テロップが与える影響というのは身体と心どちらに対してでしょうか?またそれは良い悪いで区別できるものですか?
  • [A] 本研究では視聴者の心的な態度に対しての影響を調べています。良い悪いという区別ではなくて、視聴者が何かを見たとき対象に対して何を感じるのかということに焦点をあてています。 例えば、人間に対して愚かである、賢いと感じることやクイズに対して難しい、簡単であると感じることです。
  • [Q] テロップが視聴者に対して与える影響を数学的にモデル化して分析を行ったと言っていましたが、実験結果が仮説の通りにならなかった場合変更の必要はあると思いますか?
  • [A] 先行研究ではチャネル理論を用いてテロップが視聴者の心的な態度に与える影響について分析を行っており、検証するために実験を行いました。実験によって分析が正しくないことが証明された場合、変更や修正が必要だと思います。

生命ソフトウェア部会研究会2009(北海道大学ファカルティハウス「エンレイソウ」)

  • 「報道番組のテロップが視聴者の賛否や出演者の評価に及ぼす影響の分析」福田純平, 須藤秀紹
    • [Q] ニュース内容の賛否などは被験者がもともと持っている価値観に影響されるのでは.
    • [A] 実験映像にはなるべく知名度の低いものを選んだ.
  • [Q] ニュース4(成人年齢18歳引下げ)とニュース5(最低賃金据え置き)は学生なら比較的知っているのでは.
  • [A] その通りなのでニュース4やニュース5では,テロップの有無で平均値に有意差が認められなかったのではないかと考えられる.
  • [Q] なぜ1つのテレビモニタを2人が見るような環境にしたのか.
  • [A] 研究室にある機器を考慮した結果である.
  • [Q] なぜ1度の実験で2人同時に行ったのか.
  • [A] 本実験はテロップの有無,映像の提示順番の組み合わせで10群を設定し,各群に2名を置くという計画であった.そのため同じ群の被験者であれば同時に行うことは可能であると判断した.

卒業研究発表会

テロップが視聴者の心的態度に与える影響に関する研究(岸上健太郎, 2008)

  • [Q] 出題される問題が難しすぎてテロップが影響が少ないのでは?
  • [A] もっと簡単な問題があれば良かったのですが,実験に使用する題材となるクイズ番組が限られているので,できるだけ簡単な問題を選択したつもりですが,若干難しい問題を選択せざるを得ませんでした.
  • [Q] アタック25(実験に使用したクイズ番組)には制作者の意図など無いのでは?
  • [A] 制作者の意図があるかどうかは別として,まずテロップがどのような影響を視聴者に与えているかを調べるために上記のクイズ番組で実験を行いました.
  • [Q] 実験に用いた5シーン(5つのクイズ)では普遍的な結果とは言えないのでは?
  • [A] 今回の実験だけでなく前回,前々回とあわせて三度実験を行っています.テロップが視聴者の心的態度に与える影響について,質的には先行研究で分析が行われているので,今回を量的に実験を行い検証しました.

報道番組のテロップが視聴者の賛否や出演者の評価に及ぼす影響の分析(福田純平, 2009)

  • [Q] テロップが影響を与えるための要因はどのようなものが考えられるか.
  • [A] テロップの影響が見られなかった報道内容2(武器輸出3原則緩和)は内容の構成が最初が報道の説明,次に賛成派意見,次に反対派意見と,シンプルな流れであった.一方,テロップの影響が見られた報道内容5(最低賃金据え置き)は,ほとんどが反対派の意見で構成されていた.このような内容の違いなども要因の1つとして考えられる,

  • [Q] 中間発表からの変更点は何か.
  • [A] 事前知識確認アンケートの分析を行った.これによって実験映像で初めて報道内容を知った被験者に影響を与える場合があるということが新たにわかった.

  • [Q] 確認テストの四択問題はテロップで表示されていたものか,されていないものか.
  • [A] テロップでもナレーション(音声)でも扱われた内容である.
  • [Q] テロップで表示されていない内容を出題してみると良いのでは.
  • [A] その場合,テロップの有無による影響は見られなくなる,もしくはテロップがあることで音声情報が阻害されて成績が下がるなどの可能性も考えられる.今後の参考にさせていただく.

添付ファイル: filetelop.jpg 298件 [詳細] fileno_telop.jpg 251件 [詳細] fileQ3-2.png 330件 [詳細] filechannel.jpg 380件 [詳細] fileposter_outline2.jpg 396件 [詳細]

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Last-modified: 2010-03-22 (月) 16:23:21 (3319d)