テロップが視聴者に与える影響に関する研究 †研究背景 †テレビ放送において,ここ10数年のうちで顕著な変化を示している要素の1つとしてテロップを用いた演出が挙げられます. たとえば最近のバラエティ番組を見ていると,ほとんどの番組の画面がテロップに占領されていることに気付きます. 出演者の音声,番組企画のテーマやタイトル,場面と場面のつなぎなど,使われ方もさまざまです. 文字のフォントや,色,大きさなど,文字自体を変化させることで,場面に合った演出をします. このようにテロップは情報発信者の意図を伝えるための演出の手段となっており, 視聴の補助を目的としている映画の字幕や字幕放送と比べて明らかに異なる性質を持ちます. テロップが多用されはじめた当初は疑問の声もありましたが,現在では当たり前のように用いられるため違和感なく受け入れる視聴者も多くいました. 確かに効果的にテロップを使うことで番組の面白さや分かりやすさなどが向上します.しかし意味もなくテロップを乱用すれば,ただ単に画面を文字で汚すことになり,視聴者に不快感を与えるだけであると考えられます. 本研究では,動画でのテロップ表示の有無が視聴者の解釈にどのように影響するかを,関連性理論を用いてモデリングし,チャネル理論を用いて検証しました. メディア文化 †メディア【media】 †メディアとは,情報の「記録」、「伝達」、「保管」などに使われる媒体です。 本研究では,テレビ、電話などのコミュニケーション・メディアに着目します. 最近のメディア(ニューメディア)としてはインターネット、携帯電話などが挙げられます。 メディアの誕生 †メディアは16世紀以降発達してきました。まず、昔のメディアは発明されてからすぐに現在のメディアとしての機能を発揮するものではありませんでした。メディアは大衆の目的、要望があって初めてメディアとしての機能を果たすのです。 メディアの誕生過程は以下の通りです. 1 メディアとなる手段が発明される。 メディアリテラシー †メディアを通して情報を得るとき,情報の受信者はメディアからの情報を鵜呑みにして,不利益を被ることがあります.これを避けるためにはメディアリテラシーを学び, その能力を高める必要性があります. メディアリテラシーとは様々なメディア(テレビ,新聞,ラジオ,雑誌,etc)が伝える情報を読み解き,その真偽を見抜き,活用する能力のことです. メディアを「批判的」に読み解くというのが基本的な考えですが,批判的(critical)とは日本語で言う「批判的に否定する態度」というネガティブな意味合いではなく,「適切な基準や根拠に基づく偏りのない思考」という前向きな意味を指しています. マスメディアが報じる情報は,社会的に現実に起きており真実として受け取られる傾向にありますが,実際には完全に客観的な報道であることは有り得ません.必ず何らかの意図や制作者の価値観が含まれています.臨場感溢れるライブ中継を目にすると,テレビ中継であることを忘れさせ,あたかも自分がその場にいるかのような錯覚に陥ることもあります.実際に経験したことよりも,メディアが伝える情報の方が,現実味を帯びていると感じていることも少なくありません.世の中はメディアを通して多くの矛盾を抱えているので,真実だけを見抜くのは難しいです.メディア社会で生きていくためにメディアがもたらす利点と限界を把握する必要性があります.メディアが伝える以外のことや,異なるものの見方が存在することを理解してメディアと関わっていくことが大切です. 情報伝達の恣意性 †ある情報が発信者から受信者へと伝えたれるとき,発信者の思惑によってその情報のもつ意味が恣意的に歪められる場合があります. [例] 事象A 新しいレストランOPEN テレビなどのマスメディアも,視聴者の興味を惹きつけたり番組を演出するために,客観的事実に恣意的な意味をトッピングする場合があります.最近では登場人物のセリフに意味ありげなテロップを重ねることで,その登場人物の「キャラクター」を固定化し,番組の進行を分かりやすくする手法が多用されています. チャネル理論 †チャネル理論 J.BarwiseとJ.Seligmanによって,状況意味論構築と並行して作られた数学的道具です。 定性的な情報の流れを数学的に扱うことができます。 分類域(classification) 分類域:A=〈tok(A),typ(A), |=A〉は次の3つから構成されます。 1.トークン集合: tok(A) ある状態の対象の集合 2.タイプ集合 : typ(A) トークンを分類した集合 3.tok(A)とtyp(A)の間の二項関係: |=A tok(A)とtyp(A)が成立
局在論理(local logic) 局在論理L=〈A, |-L,,NL〉は次の3つから構成されます。 1.分類域:A=〈tok(A),typ(A), |=A〉 2.Aのいくつかのシークエントの集合:|-L, 3.|-L,に属すすべてのシークエントを満足するトークンの集合:NL⊆tok(A) 分類域:A=〈tok(A),typ(A), |=A〉に対して、タイプ集合typ(A)から部分集合Γ,Δを抜き出し、その対〈Γ,Δ〉をシークエントとよびます。 あるトークンa∈tok(A)が「(∀γ∈Г , a|=γ)ならば、(∃δ∈Δ , a|=δ)」であるとき、「aは〈Γ,Δ〉を満足する」といいます。 すべてのa∈tok(A)が〈Γ,Δ〉を満足するとき、Γ|-AΔと表記し、〈Γ,Δ〉を「Aの制約」とよびます。 分類域Aのすべての制約集合を「Aのcomplete theory」とよび、Th(A)と表記します。 Aのすべてのトークンが満足するシークエントがすべて|-Lに属するとき、Lは完全であるといいます。 情報射(infomorphism) f∨(β) |=Aα iff b|=Bf∧(α) 関連性理論 †関連性理論では発話が伝達する意味として,明示的な意味での表意,非明示的な意味での推意に分類できるとしています. 表意 表意は,言語情報の不完全さを推論によって補って導かれます. 具体的な表意形成の作業として,一義化,飽和,自由拡充,アドホック形成概念の4つのプロセスが定義されています. 推意 推意は復元された表意を基に,純粋に推論のみで発話の意図を復元するものです. 言い換えるなら,推意とは,表意と認知環境を相互作用させ,適切な認知効果を得るプロセスといえます. 情報発信者・メディア・受信者間の情報チャネル †一般的なクイズ番組視聴時の情報の流れを,関連性理論とチャネル理論を用いてモデル化すると以下のようになります. タイプの対応によって以下のことが分かります.
トークンの対応から以下のことが分かります.
テロップが視聴者に与える影響 †クイズ番組 †テロップが視聴者の心的態度に与える影響の分析は上記のチャネル理論を拡張することによって行いました.概要は以下の通りです. テロップが誤答として表示される ↓ 視聴者による「普通の人はこのような回答はしない,クイズの回答者は(自分よりも)愚かである」という解釈 ↓ 視聴者による「問題が難しかったから誤答したのではなく,クイズの回答者が愚かであるため簡単な問題だったのにも関わらず誤答した」という解釈 ↓ 普通である自分は「正答できたはず」という既知感を視聴者が持つ可能性がある 報道番組 †近年,多くの報道番組ではテロップ以外にも,CGやフリップなどの視覚効果,BGMや効果音などの音響効果が施されています.
このような報道番組の変化を報道番組の娯楽化と呼びます.
報道番組の娯楽化は視聴者に飽きずに番組を観てもらうためには大切なことですが,「ニュースをわかりやすく伝える」という本来の目的が軽視されてしまう恐れもあります. これまでの研究によって,クイズ番組ではテロップが視聴者に影響を与える場合があることがわかりましたが,報道番組に使用されるテロップにもクイズ番組と同様に視聴者の判断に影響があるとすると,視聴者が誤解や拡大解釈を起こす可能性があります. そこで実際の報道番組を用いて実験を行い,テロップが視聴者に与える影響を分析しました. ある報道番組をもとにして,実験映像を作成します. 被験者には「テロップが表示される実験映像」(下図左)か「テロップが表示されない実験映像」(下図右)のどちらかを観てもらいます. 「テロップが表示されない実験映像」は「テロップが表示される実験映像」を編集して,テロップをモザイクで隠したものです. 実験映像を観た後,被験者に「この報道についてどう感じますか?」や「この出演者についてどう感じますか?」などの質問に答えてもらいました. 「テロップが表示される実験映像」と「テロップが表示されない実験映像」を観た被験者の回答をそれぞれまとめて,テロップがあることで回答にどのような違いが出るのかを調べました.
研究会での発表 †知能システムシンポジウム2008(東京工業大学) †
ヒューマンインタフェースシンポジウム2008(大阪大学)9/2 †
生命ソフトウェア部会研究会2008(室蘭工業大学SVBL) †
生命ソフトウェア部会研究会2009(北海道大学ファカルティハウス「エンレイソウ」) †
卒業研究発表会 †テロップが視聴者の心的態度に与える影響に関する研究(岸上健太郎, 2008) †
報道番組のテロップが視聴者の賛否や出演者の評価に及ぼす影響の分析(福田純平, 2009) †
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