コミュニティ内における視覚言語の形式の伝播に関する研究

研究背景

人は直接会って会話をする,電話をかける,メールを送るなど,様々な手段を用いて他者とコミュニケーションをとっています.これらのコミュニケーションを行う際には,言語が人々にとって大変重要な役割を果たしています.言語は人間社会で共通の概念(文化)が形成されるのと同時に生まれたとされています.そのため言語は社会背景や文化を含んでおり,文化が異なると言語も異なります.よって言語の変遷や伝わり方を調べることで,社会や文化の変遷を知ることができると考えられます.

そこで本研究では,言語よりも直感的で分かりやすいという特徴があるピクトグラムを用いて,コミュニティ内でのみ通用する独自のルール(これをローカルルールとする)の形成や伝播の様子を調べました.さらにその後の応用研究として,伝播の確認できたルールの特徴を取り入れたコミュニケーションシステムを提案しました.

関連研究

本研究では言語と文化の関係性に注目し,視覚言語としてのピクトグラムを用いてローカルルールについて観察しました.本研究と関連する先行研究として,いくつかの視覚言語について説明します.

LoCoS

LoCoSは,1960年に太田幸夫氏によって開発された視覚言語を用いたコミュニケーションシステムです.使用の際には,上中下の3段の横につづくブロック内に,英語の文法に従い主語+動詞+目的語の順にシンボルを並べます.単語をおさめるブロックの位置により品詞や重要性が変わるという特徴をもち,使用者は円弧や点,直線など19の形を組み合わせて単語を作成します.

PICシステム

ピクトグラムを双方向コミュニケーションシステムとして用いる試みは以前からなされており,その1つにPICシステムがあります.PICシステムは主に失語症など言語障害をもつ人を対象に開発されたもので,現在北米やヨーロッパ諸国を中心に,かなり幅広く使用されています.このシステムは1単語につき1枚のピクトグラムが割り当てられており,動詞や前置詞を表すピクトグラムも存在します.さらにPICシステムの単語の数は日常生活に必要な語だけで3000語とされています.使用者はこれらの中から,適当な絵記号を指で示し自分の意思を伝えます.

ハンディ・ピクト

ハンディピクトとは,ピクトグラムが印刷された小さなカードがカテゴリーごとにファイルに収納されたもので,持ち運びができることが特徴です.このハンディピクトを使用する際には,必要に応じてファイルから取り出し,カードを並べて自分の想いを伝えます.ハンディピクトの特長として,構文や品詞を特に定めていないということが挙げられます.これにより使用者の学習負担が軽減されるだけでなく,発話者の直感的な表現が可能となり,発話者の情動に基づく表現ができるとしています.

視覚言語の形式の伝播 --ピクトグラムを例として--

本研究ではピクトグラムによりコミュニケーションをとらせ,その結果を分析しました. 得られた結果の分析として,被験者のピクトグラムによるやり取りをプロトコル分析しました.その結果を以下に示します.またピクトグラムの経過的な使用傾向を分析するにあたり,表現方法(逐次的表現とダイヤグラム的表現)に着目しました.ピクトグラムの表現方法について説明します.

プロトコル分析

プロトコル分析とは,思考言語を口に出しながら課題を行うよう被験者に求め、得られた言語報告を分析する手法です.実験中はピクトグラムの配置が被験者の思考を反映していると考え,ピクトグラムの並び方を分析しました.

逐次的表現とダイヤグラム的表現

  • 逐次的表現とは,事象を時系列で説明し,1枚のピクトグラムを1単語に準ずるかたちで扱う表現方法である.
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  • ダイヤグラム的表現とは,配置した複数のピクトグラムの位置関係をもって図として成り立たせ,全体で1つの概念を説明する表現方法である.
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ピクトグラムを用いたコミュニケーションシステムの提案

連歌コミュニケーション

実験において伝播が確認できたルールの特徴に留意し,ピクトグラムで連歌を詠む新たなコミュニケーションシステムを提案します.これを連歌コミュニケーションと名付けました. 連歌とは五七五七七という形式の句を複数の人が詠みつないでいくコミュニケーションシステムです.前の人が書いた句を別の人が詠みつなげるという連歌の仕組みは,前の句を詠んだ人の想いを推測することが必要となります.このように相手の意図を類推するという行為は,今日のコミュニケーションにおいても重要な要素といえます.さらにピクトグラムを用いることで,言語や文化にかかわらず心情を伝え合えるというメリットもあります.以上のことを踏まえ,ピクトグラムを用いたコミュニケーションシステムを提案します.

研究会での発表

生命ソフトウェア部会研究会2009(北海道大学ファカルティハウス「エンレイソウ」)

  • 「コミュニティ内における視覚言語の形式の伝播に関する研究」南部真友子, 坂本牧葉, 岡田大輝, 佐藤祐輔, 須藤秀紹
    • [Q] なぜコミュニティ内に伝播する文法と伝播しない文法があったのか.
    • [A] どのような話題にも適応できるルールが伝播しやすいルールだと考えられる.実験結果から文法のような特徴をもつルールは伝播しやすく,1枚のピクトグラムに対し意味が固定される単語のような特徴をもつルールは伝播しにくいと考察できる.

    • [Q] ピクトグラムの置き方にルールはあるのか.
    • [A] 予備実験で,被験者に短い文章の書かれた紙を渡しそれらをピクトグラムで表現してもらった.その際被験者の提示カードが1文あたり平均4.6枚だったため,今回は1度に使用できる枚数を5枚までとし,それらを横1列で配置するよう指示した.

    • [Q] カードを上下に置く,重ねるなどが出来ないことが実験結果に影響していないか.
    • [A] カードを上下に置くことや重ねることにより表現の幅が広がると予想されるため,今回の実験結果とは異なる文法が形成され,伝播状況も変化する可能性はあったと思う.

    • [Q] 被験者は事前にピクトグラムを扱う練習をしているのか.
    • [A] 予備実験で被験者には短い文章をピクトグラムで表してもらった.しかし本実験のようにピクトグラムを用いて相手とコミュニケーションをとる練習はさせていない.ピクトグラムでのコミュニケーションに慣れていない状態からルールが形成される過程を観察したくこのようにした.

    • [Q] 今後の研究の展望は.
    • [A] コミュニティ内全体に伝播したルールと全体へは伝播しなかったルールについて考察を深め,それぞれのルールの特徴を見つけたい.次に得られた特徴に基づき伝播すると予想されるルールと伝播しないと予想されるルールを作成し,伝播の様子を調べたい.またコミュニティを超えたルールの伝播が見られなったため,その検証も行いたい.

卒業研究発表会

コミュニティ内における視覚言語の形式の伝播に関する研究(南部真友子, 2009)

  • [Q] ドミノグラムにおいて,ピクトグラムをタグとして記事を検索し結果を一列に表示するシステムでは何がいけないのか.どうして記事がドミノのように配置される必要があるのか.
  • [A] このシステムの場合では,タグで検索して一列に結果が表示される場合とは違い,視点を変えることで解釈の異なるストーリーが生成されるところに面白さがある.

  • [Q] ドミノグラムにおいて,投稿した記事は事前に投稿された他者の記事とどのような規則に従いつながっているのか.
  • [A] スライドに表示した内容はあくまでもサンプルである.具体的な内容については今後,検討して実装していきたいと考えている.

添付ファイル: filetikuji.jpg 234件 [詳細] filediagram.jpg 227件 [詳細] filedomino2.jpg 238件 [詳細]

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Last-modified: 2010-03-23 (火) 01:18:48 (3410d)